去年と今年の海は違う。正解がないから釣りは楽しい。

お客さんの後押しで、お客さんに会いたくて始めた仕立船

名古屋港に面し、域内に二本の川の流れる飛島村は、魚釣りの人気スポットやアクセスポイントが点在します。そうした中、名古屋高速インターから5分で船着き場に到着する交通の便もあって、多くの釣りファンの支持を集めるのが、仕立船と釣餌販売を営む「太平屋」さんです。仕立船「太平丸Ⅱ」のオーナーの藤田健治さんは、釣具・釣餌の専門店として培った豊富な経験をもとに、その船を操る船長として、初心者から玄人まで釣りファンを大いに楽しませています。

藤田さん曰く、「もともと叔父が釣具店を始め、子どもの頃から釣りの仕事には慣れ親しんできました。学校を卒業すると当たり前のように店を手伝い、そして、叔父から店を継承しました。昭和の後半から、かれこれもう40年以上ずっと釣りの仕事一筋でやってきました」
転機となったのは、大手物流倉庫の建設予定地になったのを機に釣具店を売却することになり、釣餌の通信販売のみを続けることにした時のこと。常連のお客さんから「餌を獲るための船があるじゃないか。ぜひ仕立船をやってほしい!」との温かい声があがりました。

「考えてみれば、毎日、釣りを通していろいろなお客さんに出会えて楽しめた仕事人生なのです。釣りが好きだし、そうしたお客さんに会えなくなるのも寂しいと思い、やってみようと一念発起して仕立船を始めました」と、お客さんの声に背中を押されての新たな一歩のスタート。ユニホームとして身にまとう船名の「太平丸Ⅱ」の文字が染め抜かれたジャンパーは、お客さんからのプレゼントだそうで、藤田さんがお客さんとの間で紡いできた確かな絆がうかがえます。

船長の目利きのもと、初心者でも安心して狙える

藤田さんが操る仕立船「太平丸Ⅱ」は、家族や仲間と貸し切りでリーズナブルに釣りを楽しむことができる船。仲間同士の乗り合いなので、初心者でも安心して楽しめます。そして、藤田さんの船のもう一つの楽しみは、希少な生き餌のカメジャコを使って釣りができることです。

「シーズンによって釣果はさまざまですね。黒鯛、コショウダイ、キビレ、メッキ、カサゴ、アナゴ。釣り物によっては、野間から新舞子にかけてキス、マダコ、木曽三川河口のマゴチ、天然ウナギ、ハゼ、ギマなど。乗って良かった、楽しかったと言われるのが一番嬉しいのでね」と微笑みます。

潮の流れや天気、水質、水温などの違いで刻々と状況が変わる海の上で、いかに釣れるスポットを判断するのか。海に出るときは毎回、船長の確かな目利きが求められます。「風や波の高さや気温などから、こちらがダメなら、あちらと、これまでの経験から機敏に判断して釣れるスポットへ小回りを利かせてご案内しています。もちろん安全が何より最優先です!」と藤田さん。常連さんが厚い信頼を寄せている理由がよくわかります。

新鮮な生餌を使って、のんびり釣りを楽しむ贅沢

太平屋さんの強みと言えば、釣餌のカメジャコ。そのにおいや大きさで大物を引き寄せることができる人気の生き餌です。海の環境の変化で年々獲れる量が減っており、現在は、希少なものになっています。しかしながら、藤田さんは、カメジャコを掘る技も熟練しているだけに、乱獲しないように生育状況に配慮しながら、カメジャコの成長具合や時期を見ながら獲っているそうです。

20年ほど前からルアー釣りが流行し、生き餌で釣る人が少なくなってきたそうですが、「生き餌は鮮度が肝心。代替できないからこそ価値が高い」と藤田さんが言うように、太平屋さんには、岡山や静岡はじめ全国の釣りファンから、生きたまま急速冷凍した新鮮なカメジャコ(アナジャコ)を求めて注文が入るそうです。

「生き餌での釣りは、誘いも必要ですが基本は『待つ』釣りなのです。仲間同士で釣り談義でもしながら、のんびりと6時間ぐらいかけて潮を読みながら釣りを楽しむことができる。それは仕立船だからこその贅沢な時間の過ごし方だと思っています」

そして、「釣りって、正解がないのが魅力。釣り方をアドバイスすることもありますが、自分流のやり方を持っているならそれでいいのです。去年は上手くいっても、今年はその通りにはいかない。いつも同じとは限らない。生き物の魚と自然環境との対話と勝負。それが釣りの面白さであり、醍醐味です。だから、釣れても釣れなくてもそれを楽しんでほしいです」

藤田船長の言葉どおり、太平屋さんのブログには、お客さんの笑顔がいっぱい。釣りの楽しさを教えてくれる船長と一緒に、海に出たくなります。

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